全身麻酔で歯が抜ける?
のりのり麻酔科医です。
「芸能人は歯が命」ってCMが以前ありましたよね。
でも、ボク達一般人もやっぱり歯は大切です。
今日は麻酔に関わる「歯のトラブル」のお話です。
稀なものが多いとはいえ、どんな医療行為でも「合併症」というものが起こりえます。
もちろん麻酔も例外ではありません。
そんな全身麻酔の合併症の1つに「歯牙損傷(しがそんしょう)」というものがあります。
簡単に言うと、歯が欠けてしまったり、折れてしまったり、抜けてしまったりする事です。
全身麻酔を行うと、麻酔薬の影響で自分で呼吸する力が弱くなってしまうため、
ご本人は眠っているので全くわかりませんが、空気の通り道(気管)に呼吸を助ける管を入れます。(場合によっては気管の手前までしか入れないものもあります)
その際、無闇に管を入れると、呼吸とは関係ない「食道(しょくどう)」に入ってしまったり、気管の入り口を傷つけてしまう恐れがあるので、
通常は「喉頭鏡(こうとうきょう)」という金属の板とライトが組合わさった道具で喉の奥をよくみながら気管に管を入れます。
↓↓↓コレです
喉に管を入れる際、入れやすい人と入れづらい人がいます。アゴが小さい人や口が開きづらい人、首が悪い人など入れづらくなる原因はたくさんあります。
ボクたち麻酔科医は呼吸を助けるために、こういった管を入れるのが難しい人にも呼吸の管を入れなくてはいけません。
そのため状況によっては、どんなに気をつけていてもこの金属の板が歯に当たって傷つけてしまう恐れがあるんです。
普通は大丈夫なのですが、術前回診で抜けそうな歯や弱っている歯がないか確認し、もしあればボクは
「呼吸を助ける事が優先される場合、どんなに気をつけていても金属の板で歯が傷ついてしまったり、ときには折れたり抜けてしまったりすることもあります。知らないうちに抜けて窒息の原因になる可能性もあるので、今にも抜けそうな場合は安全の為に抜いてしまう事もあります」と説明しています。
まあ、「歯が折れたり抜けたりしてもいい」という人はいないと思いますが、呼吸の管が入れられないと命に関わるため、十分に説明して御理解を得ています。(不快に思われるかもしれませんが、それを含めての全身麻酔ということです)
でも・・困った事に、 実際は結構ぐらぐらなのに、ご本人は「ぐらぐらしている歯は無いですよ」なんて言われることもしばしばあるんです。
これはボクの体験談ですが・・・
たまに、よその病院で麻酔のお仕事をすることもあるんです。
そんなときは、術前回診は別の麻酔科の先生にお願いして、申し送りの紙で情報を共有します。
実際ボクが患者さんにお会いするのは手術室がはじめてになるわけです。
あるとき、ご年配の女性の全身麻酔を担当し、口に例の金属の器具を入れて気管に管を入れようとしたんです。(これを「挿管(そうかん)」といいます)
「ちょっと難しいな・・・」そう思いつつ、
なんとか気管の入り口を確認した瞬間、衝撃的な映像が眼に飛び込んできました。
なんと、金属の板が触れていた前歯が90°天井を向いていたのです!!
「ええ!!全然無理してないのに!!!!なんでぇ!!!!!(泣)」
抜けはしませんでしたが、もう歯がぷらぷらです。
このままでもよかったのですが、もしこの歯が何かの拍子に抜けてしまい、のどの奥に落ちて、管を抜いた後に気管に入ってしまった場合、最悪窒息する可能性もあるため、危険と判断して抜きました。
可能性として起こりうる合併症ですから、医療者としては仕方のないことですが、ご本人としては不本意だろうな・・・と落ちこみました(泣)
手術が終わって患者さんが病室に帰り、しっかり麻酔が覚めた頃を見計らって病室を訪問して事情を説明すると、
「ああ、前歯はもう抜けそうだったから、近々歯医者に行こうと思ってたんで大丈夫ですよ」と御本人と御家族。
・・・術前回診の情報がしっかり共有できていませんでした
というか、麻酔をかける前に自分で確認する事を怠ったボクが悪いんですが(涙)
以来、自分で術前回診にいけなかった人でも、全員の歯や口の状態や基礎疾患等は眠る前に確認するようになりました。
麻酔科医としては当然のことなのですが、ボクはこの時に学んだんです。
っというわけで、皆さんも全身麻酔前には是非、
主治医の先生に相談の上、ぐらつきのある歯や弱い歯を歯医者さんで治療してもらってくださいね。
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ありがとうございました~!!
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