抜歯の全身麻酔と術後の痛み
のりのり麻酔科医です。
抜歯って怖いですよね。ボクも「親知らず」が虫歯になって抜歯をすすめられたのに、怖くて何年も歯医者に行けませんでした(汗)
いざやってみると、局所麻酔の注射がちくっと痛いくらいで、抜いた後もそこまで痛くなかったです。上の歯だからとか、抜きやすかったからとか、そのほか個人差も当然あると思います。
ボクが経験した親知らず(※医学用語では「智歯(ちし)」といいます)の抜歯は、『局所麻酔』で行いました。
開業の歯医者さんでやるような局所麻酔による抜歯以外にも、病院の手術室で全身麻酔をしてやる抜歯もあります。
主に、局所麻酔では痛くて抜歯ができないような場合が対象です。
「難抜歯」といって通常の方法では抜くのが難しい状態や、「埋伏歯(まいふくし)」といって歯が埋まってしまっている状態が全身麻酔の適応になります。
他にも、精神発達遅滞や自閉症などの患者さんで診察や治療に協力ができない方は、全身麻酔で歯の治療や抜歯を受けることがあります。
開業の歯医者さんによっては、歯の治療の際(主にインプラントのような自費診療のときのようです)に鎮静を使ってくれることもあるそうですが、ボクはよくわからないので、申し訳ありませんが歯医者さんに聞いてみてください。
この記事では、抜歯の全身麻酔の流れをご説明します。
手術室に入室
決まった時間になったら病室の看護師と一緒に手術室に来ていただくことが多いです。抜歯の場合は当日に外来に来ていただいてそのまま手術室に移動というパターンもあるかと思います。(手術のあとそのまま入院)
麻酔前の準備
全身麻酔の基本的な準備を行います。手術室のベッドにあおむけに寝ていただき、心電図のシールを胸に3か所貼り、血圧計を腕にまいて、パルスオキシメーターという体の中の酸素の値を測るクリップ(またはシール)を指にはめます(※)。
麻酔に必要なお薬を投与するために点滴が必要です。手術室に来る前に点滴をはじめていない場合は、手術室で麻酔科医が点滴のお注射をすると思います。
(※)正確には「動脈血の酸素飽和度」というのをモニターする機械です。
全身麻酔の流れ
お顔のうえに酸素マスクをのせさせていただきます。体に酸素をとりこんでいる最中に、点滴の側管というところからお休みいただくお薬を入れます。麻酔科医によって「お休みいただくまで深呼吸をしていてください」だったり、「1から数をかぞえてください」だったり、「わかりますか~」と何回かお名前を呼んだりします。
お休みいただくお薬にもいくつか種類がありますが、プロポフォールという薬でお休みいただくことがほとんどです。プロポフォールの場合、体にお薬が入ってから遅くても10秒~20秒以内でお休みいただけます。このとき「血管痛」といって点滴が入っているところが痛くなることがあるので、事前にご説明したうえで、なるべくそうならないように予防策を講じることもあります。
そして、次に気が付いた時には手術が終わってます。
これが全身麻酔です。
個人差はありますが、眠っている体感時間は一瞬~数分という方が多いです。
お休みいただいている間、ボク達がどういうことをしているかというと、
手術中はお休みいただくお薬や痛みどめのお薬をつかって手術を安全にお受けになれるようにするんですが、
こういったお薬の影響で、呼吸する力が弱くなってしまうため、ご本人がお休みになっていてわからないあいだに、
呼吸の通り道、「気管」というところに細い管を入れさせていただいて、手術の最中は人工呼吸器という機械で呼吸を管理させていただきます。
手術が終わったら、痛み止めの成分だけ体に残して、眠るお薬をやめて、意識がもどってきて呼吸がしっかりしてきたらのどの管を抜いて病室におかえりいただきます。
通常この呼吸のくだはお口からのどに入れさせていただきますが、抜歯の場合は管がお口の中の処置の邪魔になることがあるので、ほとんどの場合お鼻からのどに向かって入れさせていただきます。何度も言いますが、ご本人がお休みした後に入れさせていただきます。
抜歯の麻酔のポイント
- 手術時間は術者の先生の技術や、抜く歯の状況や、抜く歯の位置などによって異なるので一概には言えませんが、2本抜く手術で30分から長くて1時間という感じがします。
- 手術時間が2時間を超えなければ、ボクは尿の管(尿カテーテル・フォーリーカテーテル)は要りませんと言っています。主治医の先生とご相談ください。
- もし、通りのよい鼻や悪い鼻があれば事前にお知らせください。呼吸の管を入れさせていただく際の参考にします。とはいえ、お休みいただいた後に綿棒などで通りを確認するため、別にわからなくても大丈夫です。また、ご本人の申告された逆側のほうが実際に診察すると通りがよいこともあるので、あくまでも参考にさせていただく程度です。
- お鼻から管を入れるので、術後に鼻血がでる場合があります。通常はお休みいただいた後にお鼻に止血剤・局所麻酔・消毒などの処置をして管をいれるのですが、ほとんどの方がご経験があるとおり、お鼻の粘膜はデリケートなので、管の出し入れで出血してしまうことが多いです。量としては通常の鼻血程度で、入れるときに出た鼻血が術後は止まっているということがほとんどです。
抜歯の術後の痛み
術後鎮痛のための消炎・鎮痛薬の点滴や静脈注射薬を使用すると、目を覚まして病室にお帰りになるときは、ほとんどの方が痛みないか、ほんの少しです。
歯科医・口腔外科の先生に伺いましたが、その後もそれほど痛みの強い方はいないようです。通常、内服の消炎鎮痛薬で対応可能のようです。
以上が抜歯術における全身麻酔の流れになります。あくまでも参考までに一般的なことを説明したので、実際の抜歯や麻酔に関しては主治医や担当の麻酔科医にご確認をお願いします。
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