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全身麻酔と鎮静の違い

 

目覚まし時計

 

のりのり麻酔科医です。

 

今日は麻酔の基本知識、「全身麻酔と鎮静(ちんせい)」の違いについてです。

 

※この記事は2012.7.29に旧ブログ「のりのり麻酔科医のブログ」に掲載されたものを一部改編したものです。


①「全身麻酔じゃないんですか?!」

手術を受ける多くの患者さんが気になるポイントは・・・

全身麻酔なのかなぁ?・・・眠っている間に終わって欲しいな・・・

だと思います。

術前回診の際、「下半身麻酔+鎮静でやりますよ」というと、あからさまに落胆の表情を浮かべて「全身麻酔にできませんか?」と言われる事がしばしばあります。

そこでこの記事では、「全身麻酔」と「鎮静(ちんせい)」という用語を正しく覚えていただきたいと思います。

この用語を覚えて頂ければ、「え~!!下半身麻酔なんですか?!全身麻酔にしてください!!」という悲痛な叫びが、少しは減ると思うんです。

まず、難しいことはあんまり知りたくないなぁ・・・と思われる方は、かなり雑ですがこう考えてください。

「全身麻酔も鎮静もどちらも手術中は眠っているから大丈夫!!」ということです。

下半身麻酔でも「鎮静」を行えば、眠っている間に手術は終わってしまいます。恐れる事はありません。

なぜなら、ここでいう「鎮静」というのは、基本的には眠っていただくことだからです。

すると、「全身麻酔となにがちがうんだ?!」と思われるかもしれません。

たしかに両者とも眠ってしまうという点では同じです。

しかし、ふつう全身麻酔と鎮静とでは薬の種類や量が違ってきます。

そのため、ここもあえて雑にいうと、「全身麻酔はたくさん薬を使って呼吸もとめて、喉に管を入れて、人工呼吸器を使う麻酔。鎮静はちょっと手術中は眠っていてくださいね~、という麻酔」です。

どうですか?どちらの麻酔がいいですか?

ボクだったら、ちょっと眠っててくださいね~の麻酔の方が怖くありません。呼吸を止めて喉に管を入れること自体に、頻度が少ないとはいえ合併症がないわけではないからです。

では、どうやってボクたちは麻酔方法を決めるのでしょうか?

②麻酔を決める上での原則

麻酔に限らず、すべての医療行為に共通する事ですが、「なるべく余計なことはしない」というのが基本です。

必要のない検査も必要の無い治療薬も、不必要な合併症や不足の事態をおこすおそれがあるからです。

麻酔もおなじです。局所麻酔でできる手術を全身麻酔でやるというは、明らかに余計な事をしすぎです。

普通のおとなが虫歯の治療をするのに、その都度呼吸がとまるほどの麻酔薬をつかい、のどの奥に管を入れ、人工呼吸器を使うというのは、やりすぎだということはご理解頂けるでしょう。

しかしこれが、局所麻酔では痛みがとれず手術時間もかかる抜歯であったり、じっとできない子供や、大人でもなんらかの障害でじっとできない方の虫歯の治療では、全身麻酔をしたほうが「安全」だといえます。

同様に、手術の部位が足や下半身などに限定されている場合、基本的にはその部分だけ麻酔が効いていればよいので、「余計な事をしない」という観点から、下半身麻酔が選択されるのです。

全身麻酔は、眠る薬や鎮静薬・筋弛緩薬などの全身投与ですから、それだけ体に負担がかかるというイメージで良いでしょう。

しかしそうはいっても、ふつう手術を受ける患者さんは「寝ている間に終わって欲しい」というのが希望でしょうから、「安全」が確保されていれば「鎮静」を行って、手術中は眠って頂くのです。

②手術に最低限必要な麻酔

あなたが手術を受けるのに、これだけは絶対やって欲しい!!という麻酔は、おそらく「痛みをとる麻酔」だと思います。

かなり当たり前のことですが、重要なことですね。

「痛みをとる麻酔」というのは、「鎮痛(ちんつう)」といいます。

下半身麻酔は「鎮痛」です。別の記事で説明しますが、硬膜外麻酔や神経ブロックというのも「鎮痛」です。

一方、全身麻酔というのは、この「鎮痛(ちんつう)」と眠ってしまう「鎮静(ちんせい)」が組合わさったものを言うのです。

そのため、下半身麻酔のときは、可能な限り鎮静を行うのです。

痛みを感じず、手術中は眠っているという点で全身麻酔とおなじことになりますからね。

しかし、問題は、下半身麻酔やその他の麻酔でも「鎮静」ができない場合もあるということです。

それはどういった場合なのでしょうか?

③手術中の快適さは二の次?!

手術に際して、達成しなければならない麻酔の目標は、「安全に手術が行える状態をつくること」です。

どんな麻酔方法を選択したとしても、安全に手術ができないと麻酔をする意味がありません。

手術によっては、患者さんが気分が悪くならないか観察が必要だったり、手術中に会話が必要だったり、お腹に力をいれてもらうなど、患者さんの協力が必要な場合があります。

この場合は眠っていると、「手術の進行」が妨げられてしまいますから、すくなくともその瞬間は鎮静はできません。

また、緊急手術等、胃にたべものが残っている場合も、鎮静がしずらくなります。

くすりで眠っているときは、嘔吐した食べ物や胃酸が気管に入らないような仕組み、「咳反射」が抑制されてしまう可能性があるからです。

この場合は、「安全」が保てないので、鎮静ができません。

以上から、眠っていても手術の進行に影響が無く、患者さんの「安全」が確保される場合に「鎮静」が可能になるのです。

手術に「快適」さは必要だと思われますが、絶対に確保されなくてはならないのは、「安全」だということです。

④同じ手術なのに同じ麻酔にならない理由

これらに加えて、患者さんの基礎疾患や状態によって麻酔方法を決定するため、同じ手術でも麻酔方法が違う場合があります。

そのため、「うちの伯母が同じ手術を受けたときは全身麻酔だったのですが・・・」という疑問を頂く事があります。

基本的に麻酔はオーダーメイドだと思ってください。同じ病気でも、予定手術であるのか緊急手術なのかでも違いますし、手術の体位(横向きとかうつ伏せとか)でも変わってきます。

腰の手術をしていたり、出血をしやすいという理由で下半身麻酔が出来ない場合もあります。

同じように、「前回の先生は全身麻酔にしてくれなかったのよ」という患者さんがいましたが、どういう状況でそうなったかはわかりません。

もしかすると、喉に管を入れるのが難しいと判断され、呼吸が弱まるリスクが高く、全身麻酔が安全に行えないと判断されたのかもしれません。

少なくとも、意地悪で全身麻酔にしないという麻酔科医はいないとおもいますから、きちんと説明をされていないか、疑問におもっていても聞けなかったのではないでしょうか。

これでは、ご本人も麻酔科医も不幸なだけです。

医療機関では医師に質問はしずらいという方の方が多いと思いますが、もし麻酔科医の説明が不十分だったら、どうしてこの麻酔方法になったのか?ということは、後々のことも考えて聞いた方がいいと思います。

ボクは日本人の奥ゆかしさは好きですが、このときばかりはアメリカ人になってください!!

というわけで、患者さんにとっても、麻酔科医の名誉(?)にとっても重要な事は、担当の麻酔科医にきちんと疑問点を聞くということです。ボクもきちんと説明するように努力しますから!!

⑤全身麻酔なのに起きちゃった?!

最後に、たま~に「前回の麻酔で全身麻酔なのに起きちゃったんですけど」という意見を聞きます。

ここまで読んで頂いた方ならお分かりだと思いますが、おそらくそれは、なんらかの鎮痛(下半身麻酔等)と「鎮静」だったのではないでしょうか?

「全身麻酔」と違って、「鎮静」は眠るけど呼吸が止まらないような量で使用します。この量は年齢や体重以外にも個人差があるので、眠りが浅い場合、体が揺さぶられたりする刺激で目が覚める事があります。

しかし、③で説明した通り、目覚めても手術中の鎮痛は下半身麻酔等の別の方法で行われているはずなので、大丈夫です!!

ただ目が覚めちゃったら、「まだ手術中なので、また眠る薬を追加しますね~」といって寝て頂くだけです。

「アウェイク」という術中覚醒(全身麻酔中に起きている事)をテーマにした映画があり、それで不安に思っている方ももしかしたらいるかもしれません。

たしかに、超スーパー稀ですが「術中覚醒」という出来事は知られています。

しかし、ほとんどの全身麻酔はみなさん「一瞬だった」「いつのまにか終わってた」「5~10分くらいしかたってないとおもった」など、眠っているあいだに手術がおわり、目が覚めますから大丈夫です!!

⑥最後に

どうでしょうか。長くなりましたが、少し麻酔に対する不安感が減りましたか?もしかして逆に不安になっちゃいましたか?(汗)

何にでも例外はあります。下半身麻酔より血圧や心臓に負担の少ない「全身麻酔」もあり得ますが、大体は正しい事を書いたつもりです。

これから手術を予定されており、麻酔に不安を感じている患者さんに少しでも役に立てたら嬉しいです。

御意見・御感想・御指摘はメールフォームからいただければ幸いです。


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    197×年アメリカ生まれ、東京育ち。英語は全然話せません。
    本業は麻酔科医です。毎日、月に変わってお注射しています。



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