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【よくある質問】全身麻酔後に目が覚めないことは?

公開日: : よくある質問, 麻酔の説明書

疑問2

 

のりのり麻酔科医です。

 

術前の麻酔の説明にうかがうと、「全身麻酔をして目が覚めないなんてことはないですか?」とご不安な面持ちで質問をされる方がたまにいます。

全身麻酔の経験者や医療者は「眠っている間に終わるから大丈夫」といいますが、薬で眠ること自体が不安な方も多いと思います。

その不安の原因の一つが、「目が覚めないかも」という疑問だと思います。

この記事では、このご質問にボクがどんなふうにお応えしているかご紹介します。

全身麻酔のお薬で眠っても、必ず起きます

全身麻酔のお薬にはいくつか種類があり、そのうちお休みいただくお薬を「鎮静薬:ちんせいやく」といいます。

全身麻酔を始めるときに、ほとんどの場合点滴の側管というところからこの鎮静薬を投与して、すぐにお休みいただきます。

もっともよく使われるプロポフォールであれば、遅くても10秒から20秒以内にお休みいただけます。

このお薬は10分くらいすると切れてしまうので、お休みいただいた直後から持続的に別に鎮静薬を投与します。

そのお薬は前述したプロポフォールであったり、吸入麻酔薬(きゅうにゅうますいやく)という揮発性のガス麻酔薬であったりします。

手術が終わったのち、これらの鎮静薬の持続投与を中止すると、大体15分以内に目が覚めて、全身麻酔に必要な呼吸の管を抜いてお部屋にお帰りいただくというのが一般的です。

3時間くらいまでの手術であればこのくらいの時間感覚で目が覚めます。

手術中に使用する痛みどめ(鎮痛薬:ちんつうやく)のなかにはお休みいただく「鎮静作用(ちんせいさよう)」があるものもあるので一概にはいえませんが、基本的にはこのような流れになります。

手術時間が長いと、目が覚めるまでに時間がかかることがある

手術時間が3~6時間の場合は、目が覚めるまでの時間が30分以上かかることもあります。また、手術時間が12時間とかもっと長い時間に及ぶと、麻酔薬もそれだけ長く使用することになるため、体の中に麻酔薬が蓄積してさらに目が覚めるのに時間がかかることがあります。このような超長時間の手術の場合は術後ほとんどの場合、お休みいただいたまま集中治療室などに移動して時間をかけて目を覚ましていただき、全身状態が安定したのちに呼吸の管を抜くことが多いです。

全身麻酔中に病気になり、目が覚めないという可能性はあるが、かなり稀

お薬に関しては上述の通りですが、麻酔中に病気になって目が覚めないという可能性は0ではありません。

これを強調するとかえって心配になってしまうと思うのですが、

麻酔中に限らず起きる可能性がある「意識障害」を伴う病気が眠っている間に起きれば目が覚めない可能性があります。

たとえば、低血糖発作・電解質異常・大きい脳梗塞などです。

特に注意が必要なのは脳梗塞で、高血圧・糖尿病・脳梗塞の既往・心房細動・虚血性心疾患・腎機能障害・末梢血管病変・慢性閉塞性肺疾患などの持病があると、持病がない方に比べて脳梗塞のリスクは高くなります。

また、術式として人工心肺を用いる心臓手術や、末梢血管の手術も脳梗塞のリスクが高くなります。

逆にいえば、普段から脳梗塞のリスクが高い方は麻酔中の脳梗塞のリスクも高くなりますが、

普段から脳梗塞のリスクが低い方は、普通は大丈夫ということです。

また、ここでいう脳梗塞のリスクというのはすごく小さい脳梗塞も含めてなので、目も覚めないくらい大きい脳梗塞が起きる確率はもっと低く、ほとんどの場合頸動脈狭窄や脳梗塞の既往が術前からわかっていることが多いので、麻酔科医としても術中の血圧変動等に気を付けて麻酔をしています。

ということで、

術前から何もない方が、急に術中に脳梗塞になって目が覚めないということは基本的には考えられません。大丈夫です。

あまりにも稀なトラブルがなければ大丈夫

麻酔中の人為的なミスや容体が悪すぎて低酸素血症がつづき「低酸素脳症」となり、後遺症が残って目が覚めないということが過去にあったことが知られていますが、あまりにも稀な事態です。

正しい情報はお伝えしなければいけませんが、なるべく安心もしていただきたいので、合併症やトラブルお話はとても難しいです。

通常、麻酔の説明は患者さんの個々のリスクに合わせた説明をしています。この記事ではあくまでも参考までに一般的なことを書きました。実際の麻酔に関しては、担当の麻酔科医に確認してください。
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